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台風王国と呼ばれる日本は毎年のようにさまざまな水害に悩まされています。水害による被害といえば道路の寸断やがけ崩れによる建物の倒壊などが考えられますが、建屋 への浸水も大きな被害のひとつです。そこで重要となるのが工場やオフィスへの浸水対策と、万が一浸水した際の復旧対策。対応が遅れれば企業経営が立ち行かなくなってしまうケースも少なくありません。今回は、そもそも水害とはどういったものなのかに触れたうえで、工場やオフィスの浸水対策と被災後、早期に事業を再開するためのポイントについてお伝えします。
水害とは?増加する水害の現状
そもそも水害とは、大雨(豪雨)や台風など、短時間もしくは長期にわたって降る多量の雨によって引き起こされる災害を指すものです。具体的な災害としては次のようなものが挙げられます。
- 洪水
- 氾濫(外水・内水)
- 波浪
- 高潮
- 津波
- 土石流
- 地滑り
水害の現状
日本はもともと雨が多い気候ではありましたが、近年、数十分の短い時間で狭い範囲に数十mm程度の雨が急に強く降る、いわゆるゲリラ豪雨が増加しています。気象庁のデータによると、全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数は、1976~1985年が平均約226回なのに対し、2011~2020年で平均約334回と約1.5倍増加。さらに1時間に80mm以上の雨の年間発生回数では約1.9倍に増加しています。
そして、水害による被害額もここ数年、増加傾向にあるようです。国土交通省のデータによると、特に2019年には、統計開始(1961年)以来最大の被害額をもたらした東日本台風による水害もあり、過去最高額となる、2兆1,800億円を記録しています。
台風による水害というと、主に西日本に多いのではといったイメージがあるのではないでしょうか。しかし、2019年の東日本台風。そして、2016年にそれまで過去最高額であった2兆200億円の水害をもたらした要因も、岩手や北海道に上陸した台風によるように、東日本でも台風による水害は少なくありません。
また、2020年の都道府県別水害被害額を見ても、水害被害額がまったくなかったのは滋賀県のみです。これらの結果から、日本のどこにいても水害に遭うリスクはゼロではないことが分かります。そのため、万が一の備えは十分にしておく必要があると言えます。
企業が水害対策を行うべき理由
企業では事業継続を実現するうえで、十分な備えをすることはもちろん、被災した場合の被害を最小限に抑えるための早期復旧対策も併せて行っておくことが重要です。仮に十分な対策を行わなかった場合、次のようなリスクが考えられます。
- 設備機器の汚損設備機器に汚損が起きれば、生産ラインの停止が起こるリスクが発生します。
- 建物の浸水汚泥被害建物に浸水汚泥被害が起きれば業務停止や遅滞の恐れがあります。
- 汚泥やカビによる衛生面での健康被害、臭いの被害水、泥、ほこりなどは完全に取り除くことが困難なため、汚泥によるカビや臭いの発生といった衛生面や健康面での被害も考えられます。
- 重要なデータの汚損、破損契約書や製品の設計図といった重要なデータが汚損や破損により使えなくなれば、大幅な利益損失につながる可能性が高まります。
- OA機器の故障OA機器は水に弱く、浸水により故障や機能不全になれば、業務が停止してしまうだけではなく、電気系統のショートによる火災の危険も発生します。
- 製品・商品への被害工場や倉庫などに在庫している製品・商品が被害に遭えばその損失は計り知れません。
工場 やオフィスで行える浸水対策
いつどこで起きても不思議ではない水害。なかでも工場やオフィスで気を付けたい水害は浸水です。そこで、ここでは工場やオフィスで行える浸水対策と、万が一浸水してしまった際の対策をそれぞれ紹介します。
事前に行える浸水対策
- 工場やオフィスのある場所のハザードマップを確認するインターネット上のハザードマップポータルサイトで自社が安全かどうかの確認をします。
- 浸水対策用品の準備土のう、防水シート、止水パネルなど水の浸入を防ぐための対策用品を準備します。
- 避難経路の準備・確認避難経路を確保し、定期的に訓練を行います。また、浸水対策用品の設置訓練も行いましょう。
- データのバックアップ・分散クラウドサービスやサテライトオフィスの導入、水害の危険が少ない場所へバックアップ拠点をつくるなど、事前にできることはやっておきましょう。
- 損害保険への加入・被災用の資金のプールどれほどしっかりと準備をしていたとしても、災害が発生すれば被害がゼロに終わるとは限りません。万が一に備え、損害保険への加入や被災用の資金のプールは忘れずに行いましょう。
- 水害対策タイムラインの策定従業員の出勤可否および帰宅・避難指示、操業打ち切り、防止措置の実施などを策定し、全社員に配布します。
- 排水設備の清掃いざ水害が発生した際に、排水設備が汚れていると機能を果たさない場合があります。そのため、定期的に清掃を行い、万が一に備えましょう。
- 床置品の撤去床に物を置いたままにしておくと、避難の邪魔になってしまうのはもちろん、浸水した際には使い物にならなくなってしまいます。必ず撤去しておきましょう。
- 危険物の保護浸水の勢いにより、窓ガラスが割れる場合があります。そのため、飛散防止フィルムを貼る、窓ガラスの近くにものを置かないなど、危険物の保護も重要です。
- 浸水の危険がある設備やIT機器の電源遮断台風や洪水が起きた際には、浸水の危険がある設備やIT機器の電源をすぐに遮断し、漏電を起こさないようにします。
浸水してしまった際の対策
- 情報収集災害の状況は刻一刻と変化しています。浸水はどの地域まで進んでいるのか、今すぐに避難する必要があるのかなど、最新情報の収集は欠かせません。
- 浸水対策用品の設置(必要なものを必要な場所に設置する)事前に準備した浸水対策用品を必要な場所に設置し、二次災害に備えます。
- 重要データの確認・移動事業を継続していくために欠かせない重要なデータや書類をまとめて、浸水を避けられる場所まで移動します。
- 取引先や関係各所への連絡・確認被害状況によっては、早い段階で取引先や関係各所に連絡を取りましょう。自社の工場や生産拠点が別にある場合はそこの状況確認も行います。
- 避難避難が必要な場合は、社員の安全を確保したうえで指示に従って迅速に避難します。
- 臭い対策浸水すると臭いが残ってしまううえ、衛生的にもリスクがあるため、専門業者の連絡先を確認しておき、状況を見つつ連絡を取りましょう。→ 水害による臭い対策についてはこちらの記事もご参照ください。「水害で気づきにくい被害のひとつ、「臭い」の原因と除去するための方法 」
- 建物の排水、乾燥・除湿状況が落ち着いたら、建物内に入り込んだ水の排水、床や浸水した箇所の乾燥・除湿を行います。
- 電気系統の安全確認電気系統に水が入るとショートを起こし、そこから火災が発生するリスクがあります。また気づかずにぬれた手で触れてしまい感電する場合もあるため、扱いは慎重に行わなければなりません。
- 洗浄用の水の確保浸水では、水だけではなく泥やゴミなども一緒に建物の中に流れ込みます。排水だけでは復旧はできないため、事前に洗浄用の水を確保しておきます。
- ゴミの撤去手配浸水時に入り込んだゴミや、浸水により機能不全になってしまった機器など、浸水が起これば大量のゴミが発生します。これらは自分たちだけで処理するのは困難なため、専門業者に撤去手配を行いましょう。
被災後、早期に事業を再開させるためのポイント
どれだけ準備を万端にしたとしても、それを超える被害に遭ってしまう可能性もゼロではありません。そこで重要なのは被災後、どれだけ早い段階で事業を再開させられるか、そのためのBCP策定です。具体的なポイントとしては、次のような点が挙げられます。
- 復旧対策本部を設置する準備をしておく事前に指揮系統を明確にしておけば、万が一の際にも落ち着いた行動を取れる可能性が高まります。
- サプライチェーンの多重化水害が発生した際自社は無事だったとしても、取引先が災害に遭えば仕入れが困難になります。また、輸送手段がひとつしかなければ製品を届けてもらえません。サプライチェーン上で調達先を複数設定しておき、万が一に備えましょう。
- 復旧専門の会社への依頼水害の状況によっては復旧までに相当の時間を要するケースも少なくありません。少しでも迅速な復旧を実現するために、復旧専門会社への依頼も選択肢に入れておきましょう。→ 具体的なBCP策定の手順については、こちらの記事もご参照ください。「BCPとは?具体的な策定手順と策定時のポイントを解説 」
早期事業再開のポイントは確実な情報収集と指揮系統の統一
水害は地震とは違いあらかじめ予測が可能です。そのため、浸水対策を行う時間的な余裕が十分に取れるケースも多くあります。そこで被害を最小限に抑え、早期の事業再開を実現するために必要なのは確実な情報収集と指揮系統の統一です。
自社が工場やオフィスを構える場所が水害の被害をどの程度受けてしまうのかは、全社員が把握しておくべきです。また、いざというときに指示系統が統一されていないと、社員がバラバラに動いてしまい防げるものも防げなくなってしまいます。そうした意味でも、復旧会社への依頼も含め事前のBCP対策をしっかりと行ったうえで、日ごろから情報収集を怠らないようにすることが、水害被災時でも早期に事業を再開させるポイントだと言えるでしょう。