台風や豪雨、震災、火災など、さまざまな災害が懸念される現在、企業にはより一層の危機管理が求められています。しかし「危機管理」といっても漠然としており、イメージしにくいという方もいることでしょう。そこで本記事では、よく耳にする「リスク管理」との違いから、近年ますます重要になっている背景、BCP(事業継続計画)との関係まで、危機管理について押さえておきたいポイントを解説します。
危機管理とは
危機管理とは具体的に何を意味しているのでしょうか。政府は以下のように定義をしています。
「国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生じ、又は生じる恐れがある緊急の事態への対処及び当該事態の発生の防止をいう」(内閣法第15条より)
ここでいう「緊急の事態」には、大規模自然災害、重大事故、重大事件(ハイジャック・人質、サイバーテロ)、武力攻撃が含まれています。
企業の危機管理もこれとおおむね同じ考えで「国民の生命、身体又は財産」を「従業員の生命・身体、自社の経営・操業」に置き換えるとよいでしょう
本記事では特に、喫緊の課題となっている大規模自然災害(水害、震災、火災)を念頭に置いて解説します。実際に、監査法人デロイトトーマツグループが企業に行った調査「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査 2020年版」においても、「マネジメント対象のリスク」でもっとも多いのが「異常気象」と「大規模な自然災害」という結果になっています。
リスク管理との違い
リスク管理と危機管理の違い
危機管理に関連した取り組みとして、リスク管理があります。この2つは混同されることが多いのですが、以下のように分けることができます。
- 「リスク管理」(Risk Management):起こり得るリスクを洗い出し、被害の防止に努めること
- 「危機管理」(Crisis Management):生じた危機に対処し、早期の復旧を図ること
つまり、リスク管理は「あらかじめ備える事前策」であるのに対して、危機管理は「事態が起きたあとの善後策」という位置付けになります。
リスク(Risk)と危機(Crisis)の違い
リスク管理と危機管理が混同される理由は、「リスク」と「危機」という言葉の定義自体があいまいなことにあります。ここで両者の違いを明確にしておきましょう。
- リスク(Risk):起こり得る事象及びそれらの結果並びに起こりやすさ
- 危機(Crisis):想定外の出来事。欧米では、Disaster(思いがけなく起きた深刻な事態)やCatastrophe(壊滅的なほどの大惨事)と呼ぶことも
上記のリスクの定義は、リスク管理のJIS規格である「JIS Q 31000」から抜粋したもので、「起こり得る事象=想定内」と解釈できるので事前策を打つことが可能です。
もう一方の危機の定義は、東京海上日動リスクコンサルティングの書籍『実践 事業継続マネジメント(第4版)』を参照したものです。このように危機は「想定外」であるため、リスクのように事前に対策を打つのが難しくなると考えられます。また、深刻な事態や大惨事と同等に考えられている点も、注目に値するでしょう。
危機管理が重要になっている理由
近年は、危機管理がますます重要になっています。その第一の理由は、気候変動による大規模災害です。地球規模で見ると以前は考えられなかった大型台風、豪雨、熱波、山火事などが頻発し、その被害が深刻化しています。
この状況は日本国内も例外ではありません。一部ですが、近年の事例を紹介しましょう。
- 水害:毎年のように台風と豪雨が発生し、記録的な大雨による観測史上1位の降水量、広範囲な被害が相次ぐ。平成30年台風21号では関西国際空港の浸水をはじめ、都市部にも被害が発生
- 地震:東日本大震災では、大規模かつ広範囲な津波による甚大な被害が発生した
- 山火事:アメリカや北極圏など海外の事例と比較すると目立たないが、日本でも年間1,000件以上が発生している(林野庁の資料より)
以上のように、大規模災害による「想定外」が頻発している現在は、危機管理の重要性がますます高まっています。
台風対策の詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
豪雨対策の詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
火災対策の詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
危機管理とBCPの関係
それでは、どのようにしてリスク管理と危機管理に取り組めばよいのでしょうか。ひとつの参考事例として、BCPに当てはめる方法を紹介します。
BCPとは「Business Continuity Plan」の略称で、「事業継続計画」と訳されます。その目的は災害時に被害を最小限に押さえ、早期復旧を実現することで、策定と発動の2段階からなっています。
BCPの策定は「リスク管理」
リスク管理に相当するのが、事前に行うBCP策定です。具体的には、以下5つの手順に沿って策定を行います。
- BCPの目的を明確にし、基本方針を立てる
- 被災時も優先して継続したい中核事業を洗い出す
- 自社が被る被害の状況をイメージする
- イメージをもとに事前対策を打つ
- 指揮系統や責任者を決める
この中の3.で被災の状況をイメージすることや、それをもとに4.で事前対策を行うことについては、「リスクアセスメント」を用いて、3つのステップで対策を打つ方法があります。
- 想定されるリスクをリストアップする
- リスクが発生する可能性・深刻度を評価する
- 対策を取るべきリスクの優先順位を付ける
リスクアセスメントについては、厚生労働省が「職場のあんぜんサイト」で解説しているので、参考にするとよいでしょう。
また、水害を想定したBCP策定には、地域の水害リスクを把握できる「ハザードマップ」や「浸水ナビ」が便利です。
さらに製造業や運輸業など、生産ラインや倉庫といった設備が重要な役割を占める業種については、設備に特化した復旧計画であるDRP(災害復旧計画)も策定しておく必要があります。その際には、自社で対処しきれないケースも考え、設備の復旧を専門に行う災害復旧会社の活用を計画に入れておきましょう。
水害対策の詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
DRPの詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
BCPの発動は「危機管理」
危機管理に相当するのが、災害発生後のBCP発動です。具体的には、以下の4つのステップで早期復旧を目指します。
- 被災当日の初動対応
- 中核事業の実施体制確立
- 翌日以降に中核事業を継続
- 収束時の災害復興
災害の規模が大きくなれば「想定外」の事態も発生するため、その場のリーダーシップや臨機応変な判断で難局を乗り越える必要があります。こうした危機管理の経験(BCPの発動)で得られた教訓をリスク管理(BCPの策定)にフィードバックすることで、より実効性の高いものにブラッシュアップしていくのです。
今やBCPは中小企業に必要不可欠な取り組みとなっており、本サイトではほかにも詳しく解説する記事を公開しています。
BCPの策定と発動に関する各ステップの詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
リスク管理と一体で危機管理の推進を
以上、危機管理について、リスク管理との比較やBCPを交えながら解説してきました。危機管理は「想定外」への対応であり、状況が発生してみなければどうなるか分からないのも事実です。しかし、だからと言って何も対策を打たなければ早期復旧が遠のくだけです。日ごろからリスク管理を徹底し、危機管理も見据えながらBCPへの取り組みを強化しましょう。特に従業員に「危機管理が重要」という意識を浸透させておけば、いざというときの対応も違うはずです。さらに、あらゆる状況を想定し、災害復旧会社へのアウトソーシングを視野に入れることも有効です。
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