製造業では生産ライン、物流業では倉庫といったかたちで、企業はそれぞれの業務の中核となる設備を持っています。災害時に、これらの設備の早期復旧を図る計画がDRPです。特に大規模な風水害や、近い将来発生が予想される巨大地震に被災するリスクが高まっている現在、企業にとってDRPの重要性はますます高まっています。この記事では、DRPの概要や策定方法、よく耳にするBCPとの関係など、実践に必要なポイントを解説します。
DRPの概要
DRP は「Disaster Recovery Plan」の略称で、日本語では「災害復旧計画」と訳されます。その名のとおり、災害で被災した場合の復旧手順を定めた計画のことで、企業防災の柱のひとつです。DRPとよく似た言葉に、BCP(事業継続計画)があります。両者は混同されがちですが、以下のように明確な違いがあります。
- BCP:被災によって物的・人的資源が制約された状況でも事業を継続させ、早期復旧につなげるための計画
- DRP:事業継続と早期復旧に必要な、ITシステムを復旧させるための計画
双方とも「災害時の早期復旧」という視点は同じですが、違うのはその対象です。まずは大枠として事業全体の早期復旧を目標としたBCPがあり、BCPを構成するサブセット(一部分)として、ITシステムの早期復旧を目標としたDRPがあるという関係です。
製造業をはじめとする中小企業の場合は、上記の「 ITシステム」を生産ラインや倉庫などの「設備」に置き換えて考えるとよいでしょう。なによりも優先しなければならないのは、一刻も早い復旧を図ることです。「DRP=IT系」という定義にとらわれるのではなく、自社の事業形態に合わせて、DRPの考え方を柔軟に取り入れることが大切です。
もっとも近年は、IoT(Internet on Things)の進展により、設備がITによって管理・制御されるケースも増えています。こうした状況から見ても、多くの中小企業にとってDRPは必要不可欠な取り組みといえるでしょう。
→ BCPの詳細については、こちらの記事もご参照ください。
DRPが必要な理由
先に述べたとおり、DRPはBCPの一部であり、まずは大前提としてBCPを策定する必要があります。近年は国、自治体、企業など、あらゆるレベルでBCPの必要性が強調されるようになりました。その背景にあるのが災害の頻発です。
近年はこれまでになく大規模な台風が毎年のように日本列島を襲っています。日本損害保険協会の調査によると、近年の主な台風による保険金の合計支払額は約2兆4千億円を超えています。それぞれの内訳を見てみましょう。
- 平成30年台風21号(2018年9月):1兆678億円
- 平成30年台風24号(2018年9月〜10月):3,061億円
- 令和元年台風15号(2019年9月):4,656億円
- 令和元年台風19号(2019年10月):5,826億円
(日本損害保険協会『ファクトブック2020日本の損害保険』をもとに作成)
東日本大震災の保険金の支払い総額が約1兆3千億円だったことを考えると、とても軽視できないレベルです。現在は地球温暖化による気候変動が進み、これまではまれだった極端現象(数十年に一度の台風、記録的な大雨など)が毎年のように発生するようになっています。2021年の夏も、日本各地が豪雨による被害に見舞われました。近い将来には、南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった、東日本大震災を上回る規模の巨大地震の発生も危惧されているのです。
大規模な災害の発生が日常的になるにつれて、BCPはますます重要になっています。なかでもシステム(設備)が稼働しなければ、事業継続も早期復旧もできません。こうした意味から、DRPの策定はBCPの中核をなす重要な取り組みといえるのです。
→ 浸水対策については、こちらの記事もご参照ください。
DRPの策定手順と策定のポイント
DRPの策定は、以下に紹介するBCPの策定手順に沿って行います。
BCPの策定手順
- 基本方針の立案:「なんのためにBCPを策定するのか」という基本方針を明確にする
- 重要商品の検討:被災後に優先して提供する商品・サービスを絞り込む
- 被害状況の確認:災害によって自社がどのようなダメージを受けるのかを想定する
- 事前対策の実施:「人、モノ、情報、金」の4つの分野で対策を練る
- 緊急時の体制の整備:統括責任者を任命し、ワークフローを構築する
まずは策定手順の1.と2.に従い、優先的に復旧させる設備を決定します。災害時は平常時と同じレベルで操業を行うことは不可能です。物的・人的資源が限られるなかで提供する商品・サービスを絞り込み、それに合わせて設備の復旧計画を立てなければなりません。例えば、停電になった場合、非常用発電の電力をどの設備に優先的に供給するかを決めておくことはとても重要です。
次に、3.と4.で想定した被害にもとづいて対策を立てます。例えば、河川に近い場所では浸水対策として、設備のかさ上げや高所移設といった方法が考えられます。
最後の5.については、設備担当者が中心的な役割を担うことになります。しかし、災害時は交通路の分断により担当者が必ずかけつけられるとは限りません。代理責任者の任命や、ほかの従業員も設備を取り扱える最低限のスキルを身に付けておくといったように、あらゆるケースを想定して準備をしましょう。
DRP策定に大切なふたつの指標
DRPの策定にあたって大切なポイントは「いつまでに、どのレベルまで普及させるか」という、具体的な数値を明確にすることです。そのために、下記ふたつの指標を用います。
- RTO (Recovery Time Objective:目標復旧時間):何日、何週間で設備を復旧させるか
- RLO (Recovery Level Objective:目標復旧レベル):平常時の何%程度の操業水準まで復旧させるか
DRPは策定したら終わりでなく、少しでも早期の復旧につなげられるように、常に計画やワークフローを見直す必要があります。その際には「RTOをできるかぎり短く、RLOをできるかぎり高く」を意識しましょう。
→ BCPの策定手順については、こちらの記事もご参照ください。
大切な設備の早期復旧のためにDRPの策定を
「江戸時代の商人は、火事になると顧客台帳を持って逃げた」といわれています。店舗や商品が焼けてしまっても名簿さえあればなんとかして商売を再開できるのがその理由で、顧客リストの重要性を示すエピソードとして現在もよく紹介されます。しかし、多くの中小企業にとっては顧客リストだけでは不十分で、設備がなければ事業を再開できないのが現実でしょう。
したがってDRPは、現代の企業にはなくてはならない取り組みです。DRPの策定をするために有効な選択肢として考えられるのが、災害復旧専門会社の活用です。ダメージを受けた設備を修復する独自のノウハウを持つ専門業者を活用すれば、設備を丸ごと新品に交換するよりも短時間かつ低コストで復旧できる可能性が高まります。選択肢のひとつとして、念頭に置いておくとよいでしょう。
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