災害が頻発する近年、BCPはますます重要になっています。しかし、いざ策定しようとすると、何から始めていいかわからない方も多いかもしれません。特に中小企業のBCP策定は遅れている状況ですが、課題を明確にして手順に従って取り組めば、決して難しいものではありません。さらにBCPの策定によって企業価値が向上するといった、思わぬメリットも期待できます。この記事では、BCPを策定するための具体的な手順とその際のポイントについて解説します。
BCPの基本
BCP(ビー・シー・ピー)とは「Business Continuity Plan」の略で「事業継続計画」と訳されます。その目的は自然災害、感染症、テロ攻撃などによって企業が被害を被った場合でも事業を継続させ、早期復旧につなげることです。
被災すると設備が破損したり、ライフラインがストップしたりするほか、十分な数の従業員が出社できないといったケースが想定されます。こうした状況になっても、できる限り短時間で高い操業レベルまで復旧させるための計画がBCPです。
毎年のように災害が発生している現在、BCPは企業にとって必要不可欠な取り組みになっています。実際に令和元年台風19号では、BCPによって事業を継続した事例も報告されています。
→ 詳しい基礎知識の解説や令和元年台風19号における事例について解説した、こちらの記事もご参照ください。「BCPとは?災害対策との違いから運用方法までわかりやすく解説」
BCPの策定状況
内閣府の調査(令和元年度)によると、中堅企業でBCPを「策定済み」と回答したのは34.4%で、大企業(68.4%)の約半分に過ぎません。また、中堅企業よりも小規模な「その他企業」は38.2%という結果となり、国内企業の多くを占める中小企業の取り組みが進んでいない実態が明らかになりました。
また、BCP策定の前提として、中堅企業がリスクを想定した経営を行っていない理由の上位3つは、以下のとおりです。
- 取り組み時間・人員の不足:中堅企業54.1%・その他企業50.3%
- 知識・情報の不足:45.8%・その他企業38.2%
- リスクを想定してこなかった:34.5%・その他企業38.1%(内閣府『令和元年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査』をもとに作成)
実際に中小企業を経営している、あるいは中小企業で働いている方であれば、この調査結果に思い当たる節があるかもしれません。たしかに大企業と比較すると、とりわけリソース不足の問題は大きいでしょう。しかし、中小企業はモノづくりの基盤を形成しサプライチェーンの一翼を担っており、大企業と同様の社会的責任を担っています。こうした意味で、BCPの必要性は変わりません。
BCP策定のメリット
BCPを策定するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。最大のメリットは物的・人的な資源が制約を受けたなかでも事業を継続し、早期復旧が可能になることです。
たとえ平常時よりレベルは落ちても、災害時に商品やサービスを提供し続けることは顧客の安心につながります。取引先からは感謝され、「頼りになる会社」として自社の評価も向上するでしょう。
逆に、BCPを策定していなければ復旧が大幅に遅れ、ステークホルダーの信用を失い、最悪の場合は倒産に至るリスクも考えられます。持続可能な企業活動のためにも、BCPの策定は必要不可欠なのです。
さらに以下のような相乗効果も期待できます。
- 投資家や金融機関からの信用が上がり、投資や融資を受けやすくなる
- BCPの訓練を行うことで、従業員の意識やスキルが向上する
- BCPのフローを構築することで、平常時の業務も効率化できる
このようにBCPの策定は、企業価値の向上にも貢献します。経営戦略の一環という意識を持って、策定に取り組みましょう。
BCPの策定手順と策定時のポイント
BCPの策定は、決められた手順に沿って行えば決して難しくありません。
書籍やインターネットを検索するとさまざまな策定手順が出てきますが、ここでは中小企業庁による『中小企業BCP策定運用指針・第2版』の内容をもとに紹介します。この運用指針は中小企業向きに作られていますが、ベーシックで汎用(はんよう)性が高いため、自社向けにアレンジして活用することも可能です。
以下に5つのステップからなる策定手順を紹介します。
- 基本方針の立案
最初に「何のためにBCPを策定するのか」という基本方針を明確にします。災害時も事業を継続することには、以下のように何らかの目的があるはずです。- 供給責任を果たし、取引先との信頼関係を築く。
- 従業員の雇用を守る。
- 地域の経済やライフラインを守る。
例えば医薬品製造業の場合は、「被災した人々の生命と健康を守る」という形で自社の業務に照らし合わせれば、より具体的な目的が浮かび上がるでしょう。基本方針の立案は、自社の使命や存在意義を再確認することでもあります。
- 重要商品の検討
被災すれば平常時を下回る物的・人的資源で事業を継続しなければなりません。当然平常時に行っている事業のすべてを続けることは不可能です。そうなった場合に優先して提供すべき商品やサービスを、1.の基本方針に基づいて絞り込みます。- 市場シェアが自社商品の中で最大のもの。
- 重要取引先である●●社向けの商品
このように自社の中核となる商品やサービスを洗い出し、そこに物的・人的資源を集中させる体制を構築します。
- 被害状況の確認
災害によって自社がどのようなダメージを受けるのかを想定します。イメージを明確にすることで事前対策の精度が高まり、被災しても被害を最小限に食い止め、復旧までの時間を短縮できる可能性が高まるのです。
具体的には4つの分野で被害状況を想定します。- 人:設備や什器の転倒、建物の倒壊などにより一部の従業員が負傷
- 物:工場や店舗などが大破、倒壊、浸水
- 情報:コンピューターシステムが破損し、重要なデータが喪失
- 金:事業の停止により、売り上げが減少
上記は、中小企業庁が想定した大規模地震による被害の一例です。河川に近い場合は風水害を中心に被害を想定し、傾斜地に近い場合は土砂災害を想定するなど、自社の状況に合わせて詳細にイメージしましょう。
- 事前対策の実施
被害状況をイメージできたら事前対策へ進みます。こちらも4つの分野で対策を練ります。- 人:安否確認ルールの整備や、代替要員の確保
- 物:設備の固定や、代替方法の確保
- 情報:重要データの適切な保管、新たな情報収集・発信手段の確保
- 金:必要な資金の把握、現金や預金の準備
被害状況によっては、自社単独での復旧が難しいケースもあるかもしれません。工場ならほかの製造拠点に製造を依頼したり、普段取引のない調達先から原料を調達したりするなどの代替手段を考えておくことも重要です。
早期復旧につなげるために同業他社との協力や、災害復旧会社の活用も含めて対策を立てるとよいでしょう。 - 緊急時の対策の整備
1.~4.で策定した内容をスムーズに実行に移せるよう、統括責任者を任命します。被災時には必ずしも責任者が現場にいるとは限らないので、代理責任者も必ず準備しておきましょう。
どの対策を、どのような順番で実行するかのワークフローも構築します。「いざとなったら何とかなるだろう」ではなく、従業員が冷静に行動に移れるよう具体的にワークフローを考えておくべきです。
BCP策定後の運用
BCPは最初から100%完璧なものを策定する必要はありません。まずは簡単なもので構わないので策定をすませ、運用を通して実効性の高いものになるようアップデートしていくことが大切です。
中小企業庁は「定着」と「見直し」からなる運用を提案しています。
- BCPの定着:従業員にBCPを理解してもらうため、研修をはじめとする教育活動を行う
- BCPの見直し:経営状況の変化(商品・サービスの変更、生産ラインの組み替え、人事異動など)に応じて内容を見直す
見直す際には「RTO」と「RLO」という2つの指標を意識します。
- RTO(Recovery Time Objective・目標復旧時間):何日、何週間、何ヵ月で復旧させるか
- RLO(Recovery Level Objective・目標復旧レベル):平常時の何%ぐらいの操業水準まで復旧させるか「RTOをできるかぎり短く、RLOをできるかぎり高く」を目標に、計画やワークフローを見直しましょう。」
まとめ BCPの策定は社会的責任
国は大規模災害が発生しても被害を最小限に食い止め、早期の回復が可能な国土づくりを目指しています。2013年に策定された『国土強靭化政策大綱』ではBCPの重要性に触れ、災害時の企業の役割について次のようにうたっています。
「大規模災害等の発生後に国の経済活動を維持し迅速な復旧・復興を可能とするのは、政府や地方公共団体はもとより、個々の企業における事業活動の継続確保の有機的な積み重ねである」
企業にとってBCPの策定は社会的責任であり、顧客や取引先、ひいては社会全体のためにも早期復旧が必要不可欠です。しかし、被災状況によっては自社だけですべてを行うのが不可能なケースも考えられます。こうした場合でも、例えば設備の修復を専門的なノウハウを持った災害復旧会社にアウトソーシングすれば、復旧までの時間を大幅に短縮できる可能性が高まります。このように、外部とのパートナーシップも視野に入れて、BCPの策定に取り組んではいかがでしょうか。
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