「数十年に一度」レベルの台風が毎年のように発生し、南海トラフ巨大地震や首都圏直下型地震も懸念され、新型コロナウイルス感染症も終息が見えない現在。そのような状況のなか、何か対策を取らなければと感じている企業の皆様も多いのではないでしょうか。今回は特に大切な取り組みとなるBCPについて、その概要から必要な理由、運用方法まで、これだけは押さえておきたい基本中の基本を解説します。
BCPの概要
BCP(ビー・シー・ピー)とはBusiness Continuity Planの略。「事業継続計画」と訳され、以下のように説明されます。
「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです」(中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」より)
災害が発生すると、工場では生産ラインが被害を受けるかもしれません。停電によって非常用電源だけで電力を賄わなければならないケースや、十分な数の従業員が出社できないケースも考えられます。このように物的・人的な資源が制約を受ける状況になっても事業を継続させ、早期復旧につなげるための計画がBCPです。
2011年3月に発生した東日本大震災の直後は操業停止に追い込まれる企業が相次ぎ、BCPの重要性が広く認識されました。そして、気候変動による風水害の頻発をはじめ、さらなる災害のリスクが懸念される現在、BCPは企業にとって必要不可欠なものとなっています。
災害対策とBCPの違い
BCPと混同されがちな言葉に、「災害対策」があります。両者の違いは以下のとおりです。
- 災害対策:「防災計画」とも呼ばれ、その目的は従業員の身体や生命の安全確保と、物的被害の軽減です。例えば、避難路の確保、建物の耐震性強化、設備の浸水対策などがこれに当たります。
- BCP:目的は早期復旧です。どの事業を優先して継続し、どのぐらいの期間で、どのぐらいのレベルまで復旧させるかの計画を指しています。
このように両者は目的が異なりますが、ともに重要な取り組みであることは変わりません。つまり、備えとして災害対策を行うことで被害を最小限に食い止め、BCPによるスムーズな復旧につなげることが可能になります。
内閣府は、以下のような違いも挙げています。
- 災害対策:特定の防災関連部門が自社の拠点ごと(本社、工場、データセンターなど)に取り組む。
- BCP:経営者を中心に各事業部門が全社的(拠点横断的)に取り組む。(内閣府『事業継続ガイドライン』(令和3年4月)をもとに作成)
中小企業では経営者が災害対策を行うケースもあり、上記の定義が必ずしも当てはまらないかもしれませんが、ここで大切なポイントは両者の「目的が異なる」ことです。
BCMとBCPの違い
同じくBCPと混同しやすい言葉として「BCM」があります。両者の違いについても確認しておきましょう。
- BCM:Business Continuity Management(事業継続マネジメント)の略です。BCPの策定、BCPのための予算や資源の確保、取り組みを浸透させるための教育や訓練、点検や継続的な改善などのマネジメント活動を指します。
- BCP:すでに述べたように、早期復旧に向けた方針、体制、手順を示した計画のことです。
つまり、BCMの一部がBCPであり、BCMによる総合的なマネジメント活動があって、はじめてBCPが成り立ちます。先に挙げた内閣府の『事業継続ガイドライン』では、BCMを「企業・組織全体のマネジメントとして継続的・体系的に取り組むことが重要」としています。
BCPが必要な理由
近年は毎年のように大規模な災害が発生しており、こうした事態に備えてBCPを策定しておく必要があります。
ここ10年間の主な災害を振り返ってみましょう。
- 2011年3月:東日本大震災
- 2011年8月~9月:平成23年台風第12号
- 2011年11月~2012年3月:平成23年の大雪等
- 2012年11月~2013年3月:平成24年の大雪等
- 2013年11月~2014年3月:平成25年の大雪等
- 2014年8月:平成26年8月豪雨(広島土砂災害)
- 2014年9月:御嶽山噴火
- 2015年8月:平成27年台風15号
- 2016年4月:熊本地震
- 2018年6月~7月:平成30年7月豪雨
- 2018年9月:平成30年北海道胆振東部地震
- 2018年9月:平成30年台風21号
- 2018年9月~10月:平成30年台風24号
- 2019年9月:令和元年台風15号(令和元年房総半島台風)
- 2019年10月:令和元年台風19号(令和元年東日本台風)
- 2020年7月:令和2年7月豪雨(内閣府『令和3年度防災白書・附属資料』、日本損害保険協会『日本の損害保険ファクトブック』をもとに作成)
一般社団法人日本損害保険協会によると、上記のうち「平成30年台風21号」以降に発生した4つの台風による保険金の合計支払額は約2兆4千億円。東日本大震災(約1兆2,862億円)の2倍近くにもなり、甚大な被害がうかがい知れます。
その一方でBCPによって被害を軽減し、事業を継続したケースも報告されています。「令和元年台風19号」から一部の事例を紹介します(内閣府資料より)。
- サプライヤー1社が事業停止になり、代替サプライヤーを利用した(運輸業)
- ハザードマップにより事前に被害を想定し、物流車両を高台に避難させた(卸売業)
- 移動電源車、移動基地局により停電に対処した(情報通信業)また、自然災害に限らず、以下のような人為的なアクシデントによって事業が停止するリスクも考えられます。
- 漏電や火の不始末による火災
- 燃料漏れや静電気による爆発
- 薬液漏えいによる汚染
さらに現在は新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、感染症対策の観点からもBCPは必要不可欠なものになっているのです。
BCPの策定方法
BCPの重要性は増しているにもかかわらず、日本におけるBCPの策定はまだまだ進んでいません。内閣府によると中小企業の策定率は約34%と大企業の半分程度に過ぎず、早急な取り組みが求められています。具体的な策定方法としては、中小企業庁が公開している以下の手順が一例として参考になります。
- 基本方針の立案:何のためのBCPなのか、目的を明確にする
- 重要商品の検討:優先して提供すべき商品・サービスを洗い出す
- 被害状況の確認:災害により自社が受ける被害をイメージ
- 事前対策の実施:必要な経営資源を確保するための対策を打つ
- 緊急時の体制の整備:指揮系統や責任者を決めておく
→ 以上5つの手順の詳細については、こちらの記事もご参照ください。「BCPとは?具体的な策定手順と策定時のポイントを解説」
BCPの運用方法
BCPは策定がゴールではありません。いざというときに実効性を発揮するよう運用を行い、アップデートしておく必要があります。
ここで大切なポイントは、被災からどのぐらいの期間で、どのレベルまで復旧させるかを明確にすることです。それぞれ以下のような指標を設定します。
- RTO(Recovery Time Objective・目標復旧時間):何日、何週間、何ヵ月で復旧させるか。
- RLO(Recovery Level Objective・目標復旧レベル):平常時の何%程度の操業水準まで復旧させるか。
これらの指標を用いると、BCPが目的とする「早期復旧」とは「できるかぎり短いRTOで高いRLOを実現する」と言い換えられます。
まとめ BCPの実効性を高めるために
2011年の東日本大震災以前は、多くの企業が津波による被災を想定していなかったことでしょう。新型コロナウイルス感染症がまん延する以前は、感染症は遠い海外の出来事という認識だったかもしれません。近年になって日本各地を襲う風水害についても同様です。今や「災害は忘れたころにやって来る」のではなく「すぐにやって来る」時代になりました。そして、一度事業がストップしたら困るのは自社だけでなく、お客様や取引先にも多大な損害をもたらす恐れがあります。そうならないためにも「自分ごと」として、BCPに取り組まなければなりません。
しかし、万一被災してしまった場合、被災状況によっては自社単独で早期復旧をすることが困難なケースも考えられます。この際には、専門的なノウハウを持った災害復旧会社を利用するというのも有効な手段と言えるでしょう。
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